2010-10-24

父への手紙 (3)

■サイエンス

驚くべき医療の進歩は○○さんの件でもリアルに伝わってまいりますが、逆を返して素直に解釈すれば、我々は「簡単には死ねない時代」にいる、ということになります。臓器提供もニュースの話題ですが、これもその臓器を切望する別の人の命を、繋ぎとめるということでしょう。新薬も相当進化しているらしく、今までは死ぬしかなかったが、その唯一の新薬のおかげで命を繋ぎとめることができるようになったが、高額な医療費に悩まされているケースが、テレビで特集されていました。
医療を行う側は、本人や家族からのデマンドに応じるほかありません。最終的にはこのグレーゾーンの問題に対しては「引き際を、自ら決める」ということが個人的に重要な課題となってくるのではと思います。

逆に医療の進歩を過信している、という人が多くはないでしょうか。悪くなったら医者にかかれば良いという楽観的な態度で、ろくに休みもせず、イライラしてはタバコをやり、眠るために酒をやって「忙しい自分」に恍惚としているような人生では、自身の身体管理責任を放棄していると言えます。健全な精神管理と健全な身体管理があってこそ、健全な人生と言えると思います。お父さんはこのあたりのバランスが非常にうまいなあと、常々思っております。かくいう私は酒もタバコもやりませんが、運動に関して不足していますので(駅まで徒歩している分だけまだマシですが)、積極的な運動の必要性を感じています。

■成熟

まるで高度成長が終わっての停滞感と同期するかのように、いまの若者に共通しているのは精神的な難成熟性です。今日の若者は程度の差はあれ、誰も彼も漫画・アニメ文化の影響を受けています。アニメにも色々ありますが、若者を賑わしているのは中高生の少女が出てくるアニメです。私はそのようなものよりもむしろ「ゴルゴ13」に代表されるような劇画タイプのものの方が好きですが、ともかく今のマジョリティはそこにあるのが事実です。いつの時代も、漫画・アニメの読者はその登場人物を理想像として羨望しますが、その理想的表象の基準が変わったという解釈もできます。いまの若者は、理想的には「中学生・高校生のままで居たい、子供のままで居たい」のです。

社会心理学の本によると、そもそも社会規範などを無視した潜在意識下では、男が若い女を好むのは至極当然のことで、その対象ピークが少女、いわば「子供」から「大人」になる途中であるらしい。これは古来よりそのようであるようです。
アニメでは直接に性的表現は描かれませんが、セクシュアルな「要素」はそこかしこに散りばめられ、男性が好むように描かれています。男性オタクは登場キャラクターを本当に愛しているようです。女性オタク(そう、女性にもオタクが居ます)は、登場キャラクターのように可愛くなりたいようです。この傾向はコアなファン層にとどまらず、10代、20代、場合によっては30代までもが、広くその価値観を共有しています。この「大人のオンナ」よりも「少女」を好む傾向を私は難成熟性と表現したわけです。
これはある意味必然で、社会が不安定な今、悲惨な「大人」をその目で現に目撃した若者は、「大人になっても良いことはない。子供のままでいる方が得策だ」と思ってしまったのです。かくして身体だけが大人になり、精神的に未成熟な社会人が増えている昨今です。

精神分析の本によれば、「成熟」には対人関係が欠かせないといいます。昔は子供も早くから労働に駆り出され、否応なしに大人と関係することで、成熟が促されたといいます。人と関わらずに定型的な仕事だけをし、家に帰っては部屋でアニメばかりを観ていれば、成熟が果たされるはずもありません。

■マスメディア

マスメディアは自分に都合のよいことだけを報道し、都合の悪いことは報道しない、という当然の原理を、マスメディア自身が忘れ始めているように思います。「他の新聞社が書いた記事」や「他のテレビが街頭インタビューした結果」を元に「世論」が構成されがちで、これを何も疑うこともなく「世の中ではこのように言われておりますが」というように定型化・事実化してしまう傾向にあります。みんなの意見というのは誰も責任を負うことのない「実態のない言説」ですが、これをメディア自身が鵜呑みにし、真実を軽視する傾向に憂慮します。全ての言説は、最終的に責任を負う個人があって、その命をかけて語られるべきです。

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